誕生日の翌日、仕事に出る司を玄関で見送り、つくしは大掃除を始めた。
大掃除と言っても至る所が綺麗で簡単に終わる。
朝司を迎えに来た西田から貰った資料を読み始めた。
教会の内装の資料は幻想的なものばかりでつくしはいつも以上に力を入れて取り組んだ。
司にどんな内装にしたいかと聞けば、「俺はお前の記憶に残る式にしたい。主役はお前だろ?」と言われた。
つくしが出席したことがある結婚式は静、馨、倉田の式だった。
その中でも一番印象に残っているのは 静の式。
下にある小さな教会で誓った言葉。
つくしの脳裏に今も残る。
つくしはパソコンを開き、教会の内装を調べた。
建築デザイナーは生存しておらず、全ての権利は教会側にあった。
連絡先を確認、西田に連絡した。
牧野家から帰宅した二人。
元旦の日、少しだけ会社に顔を出す司。
家で資料を見ながら司の帰りを待っていたつくし。
「出かけるぞ。」
の言葉で、身軽な状態で自家用ジェットに乗った。
「行き先はどこ?」
「着けばわかる。」
行き先については答えない司。
司は疲れが溜まり、つくしの膝に頭をのせた。
「眠い。」
「いいよ。おやすみ。」
つくしは膝の上で寝る司の頭を優しくなでた。
いつからだろう、こうするようになったのは。
身体も態度もデカい司が唯一、私の前では甘え、安心しきった子供のような寝顔で膝の上で寝る。
可愛くて仕方がない。
小さい頃お母さんにこんなことして欲しかったんだよね。
今は私がしてあげるよ。
つくしは寝息を立てて寝る司を愛おしく見つめ頭を撫でた。
やがてつくしも眠りにつく。
その光景は幸せと温かいぬくもりに包まれていた。
目的地はフランスだった。
静が挙式を上げた場所。
「どうして?」
「お前はこの教会の内装がいいんだろ?」
「うん。」
「直接見てどう思うかと思ってよ。
ただ、お前がこの内装が良いって西田に報告したのを聞いたとき、嬉しかった。」
二人は手を繋ぎ、ミサが行われる教会の後ろ側に居た。
「・・・原点だと思って。」
小さく言った言葉。
司はつくしを自分に振り向かせた。
そしてあの時と同じセリフを言った。
二人の唇が重なる。
二人は共に歩む未来へ新しいスタートをきった。
原点
その言葉通り、フランスメープルのホテルへ泊まる。
はじめて結ばれた場所。
つくしが覚悟した場所。
あれから間もなく4年。
大人に容姿をかえた二人。
あの時以上の絆が二人にはあった。
流した涙も、今はお互いの思い出。
フランスで二人に新たな記憶が追加された。
***
帰国した二人。
話し合い、邸に引っ越すことにした。
帰国から9か月。
やっと主が邸に戻った。
マンションの荷物は簡単に運ばれ、邸には使用人や執事が戻った。
タマが決めた使用人と執事。
司と共にNYに渡米した執事と佐原、坂上ももちろん入っていた。
新年のあいさつと婚約者であり、6月に挙式予定だと司の口から話した。
秘密厳守だと。
人数は少ないが絶対的信頼関係が取れる人物をタマは厳選していた。
そして皆つくしが大好きであった。
つくしは使用人、執事からも信頼を受け守られていた。
***
1月4日
毎朝8時20分にスタートする朝礼。
年初めに社内モニターで会長の新年の挨拶、次に社長の挨拶が流された。
そして日本支社では支社長はいない。
全体の社の副社長であり、日本支社の最高責任者である副社長道明寺司の挨拶が流れる。
英語で行う全体朝礼。
数年前コーヒーも頼めなかった人間が綺麗な発音で英語を話す。
全体朝礼が終わった後は各部署での朝礼。
新年の挨拶が繰り返される中、道明寺ホールディングスの秘書室で一人の少女が西田の隣に立つ。
少女の名前は 牧野つくし
副社長第一秘書西田の補佐役として 抜擢された。
室長の西田から説明される。
「楓社長の辞令で牧野つくしさんが私の補佐になります。
私と同じく直属の上司は楓社長になります。
3週間程度ですが、吸収力のある牧野さんです。
わからないことは教え、自分たちも初心に返る気持ちで業務をこなしてください。」
「「「「「「「「はい」」」」」」」
つくしは 秘書課6年の山野 聡美に色々と教わっていた。
「秘書課は部屋の隣にロッカールームがあるの。
指定の制服がないからロッカールームはほとんど荷物置き場みたいな感じよ。
フロアー全体は各フロアー同じ構造なんだけど、秘書課と人事部は同じトイレの共有なの。それがちょっと問題があってね。」
「問題ですか?」
「そう、私たちは秘書課で花形って言われてるけど、大体がプライベートも犠牲にしてるようなものよ。
元々この道明寺の秘書課は優秀な人材しか入れないの。
経営戦略部と同じくらいがり勉の集団よ。
だけどね、毎年秘書課で海外赴任や移動で秘書課の人がいなくなると新年度まで人事部から補充するの。
人事部の女性は私たちが辞めれば自分が秘書課に移動になれると思うから嫌がらせも時々あるの。
牧野さんがその標的にならないとも限らないから、トイレはなるべく二人でいくようにして。
女は怖いわよ。」
「・・・わかりました。」
「入ったばっかりで、一緒にトイレ行ってなんて言えないだろうから私が一緒に行くから、遠慮なく言ってね。」
「はい、宜しくお願いします。」
「じゃあ、今から簡単なスケジュール表の書き方をしたらランチに行きましょう。
西田さんの補佐でもやることはたくさんあるわよ。」
「はい。」
山野は妹みたいなつくしを可愛がった。
ランチ前にトイレに行く二人。
個室に入っていると、人事部の3人が化粧直しの為やって来た。
「聞いた?秘書課に今日からあの牧野つくしが西田室長の補佐で配属されたらしいわよ。」
「聞いた聞いた。なんで特別社員の子が秘書なのよ。」
「それが人事うちの部署は関わっていないみたいよ。」
「ということは、本社の人事ってこと?」
「みたい。でも、副社長の秘書の補佐でしょ?許せない。」
「みんなの司様なのに。」
「そうよね。あんな綺麗な顔の司様のお傍に四六時中いるんて許せない。」
「でも、司様は大の女嫌いで婚約者のマーキーさん以外寄せ付けないって聞いたわよ?」
「帰国してからはマーキーさんとパーティー会場に出席したって記事出て来てないじゃない。」
「そうね、その牧野つくしが楓社長と行動を共にしてたから、牧野つくしがパートナーになったこともあるって社内で噂になったこともあったわよ。」
「それはないでしょ?その時は楓社長が同行したから隣に居たその子がそうみえただけよ。」
「そうかしら?でも、なんかムカつくわ。対策考えましょう。
秘書課の席が空けば私たちの中からも秘書課に移動できるかもしれないじゃない?」
「ターゲットは牧野つくしよ。顔見に行きましょ。」
三人が去って行った。
「・・・・」
「・・・・」
無言のまま山野とつくしが出て来た。
「聞いた?」
「はい。」
「こちらも対策を考えましょう。」
「対策ですか?」
「そうよ。人事部から移動になっても大体の人が続かないのよ。
私たちの仕事内容を理解していないからね。
翌年新人が入るのもあるんだけど、新人も6か月で3人残ればいい方よ。」
「そんなに厳しいんですね。」
「秘書の管理で商談が決まるのよ。」
「確かに・・・」
つくしは西田を思い出していた。
「普段重役に同行して秘書室に居ない秘書も大勢いるのよ。
秘書室にいる秘書は補佐役が多いの。
副社長と明日から同行する牧野さんは秘書室に居ることはないと思うけど、帰って来た時に嫌がらせが無いとも限らないからトイレは絶対に一人で行かないようにね。」
「はい。」
「よし、腹が減っては戦は出来ぬよ。食べるわよ。」
山野は拳を上げ食堂へ向かった。
つくしは滋さんみたいな人だな。っと思っていた。
つくしは司の新年の挨拶周りに同行した。
「秘書の牧野つくしです。」
微笑むつくしに司は苛立ち、車内で言い争う。
「俺以外の野郎に微笑むな。」
「は?仏頂面で新年の挨拶するやつがどこにいるのよ。」
「俺だよ。」
「あんたは初めから顔が笑ってないもん。私は22年間この顔でこの性格で生きて来たの。」
「今日から変えろ。」
「何ふざけたこと言ってんのよ。もう、西田さん何とかしてください。」
「・・・間もなく次の相手先の会社に着きます。二人とも顔を切り替えてください。
あまり言い争いが多いようなら、牧野様には社で別な事をしてもらいます。」
「その方が私はいいです。」
「西田、同行以外の変更はするな。」
「では、司様、牧野様の取引先の対応に口を出さないようにしてください。」
「・・・・・おう。」
あきらの想像するエロいシチュエーションは程遠かった。
***
秘書になって4日目。
仕事を終えたつくしは、夕方から女子会に参加予定だった。
参加できるのは、司が神戸のメープルにフランスから重要な取引先の接待をしなければならず、出張になったのだ。
秘書室から出て、運転手を呼ぶ。
司から命令で電車など公共交通機関は使わせてもらえなかった。
道が混んでいるので20分かかると言われ、トイレで化粧をする。
このままいきたいつくしだったが、女子会の度に化粧をしないつくしに桜子は
「今度化粧をしてこなかったら罰ゲームですからね。」と言った。
化粧をする前にトイレに入った。
後から、3人組が後を付けていたのも知らずに。
鍵を閉め、荷物を置く。
便座に座ると、カタッと上から聞こえた。
上を見るとバケツがある。
回避しようとしたときには遅く、全身がびしょ濡れになったつくし。
この野郎
怒りが込み上げた。
やられたら3倍返しがモットー。
勢いよく扉を開けたが犯人はいない。
入り口の方で声だけが聞こえた。
「明日のパーティーは風邪で来れないんじゃないのー。」
「「あはははは」」
聞き覚えのある声がした。
やることが昭和なんだよ。
さてどうしたものか。
全身びしょ濡れになったつくし。
鞄からハンカチをだし、とりあえず拭く。
待ち合わせ遅れるな。
ロッカーに入れた予備のスーツを取りに行かなくちゃ。
秘書課の人にバレるだろうか。
つくしは考えながら、トイレを出た。
思いもよらない人物に遭遇する。
「牧野さん。」
「「牧野様っ」」
「社長。」
目の前に楓と秘書三納、倉田がいた。
「はははっ見られちゃいましたね。」
頭をおさえるつくしに楓がハンカチを手渡した。
「いえ、高級なハンカチを汚すわけには。」
「風邪ひきます。倉田、ジャケットを貸してあげなさい。」
「はい。」
「三納、ロッカールームから牧野さんの着替えを持ってきてあげなさい。」
「はい」
差し出されたハンカチを受け取る。
「すいません。ありがとうございます。」
「このままトイレで三納を待ちなさい。」
「はい。」
「倉田、行くわよ。」
「はい。」
つくしはくしゃみをした。
「風邪ひきたくないな。ジャケット濡れたらどうしよう。倉田さんも寒いだろうに。」
三納が来るのをトイレで待ていた。
一方、楓は倉田に指示を出す。
「フロアーの防犯カメラで調べなさい。暇を持て余す社員は要らないわ。」
「はい。」
楓の指示で犯人は調べられ、翌日辞令がでた。
下記の社員に辞令を命ずる。
人事部 川口 美香 道明寺子会社 カーサ札幌支店
佐野 遙 道明寺子会社 ローズマリー沖縄支店
山辺 千佳 道明寺子会社 内藤物産㈱広島支店
正々堂々と戦う構えで翌日出社したつくしは、掲示板の前で項垂れる三人を見た。
???が浮かぶ中、西田がやって来た。
「我社の社員は遊ぶ暇などないのですよ。
一流企業に勤める者の行動ではないですね。
島流しの前に辞めるでしょう。
出かけますよ、牧野様、夕方の新年祝賀会は神崎様ご夫婦もお見えです。
対応をお願いします。」
「・・・・はい。」
一流企業の道明寺ホールディングス
支社で働く人間は子会社よりもより多く給料が支払われる。
その分、仕事量が多い。
それでも辞職者は少ない。
それは入社した社員がプロ意識を持って働くから。
その中でも秘書課は一致団結して働く。
世界の道明寺は秘書の支えで成り立つ。
新人が毎年入る秘書課。
約3名が残るが、課をやめた社員は意識改革が行われ、東京メープルに在籍する。
秘書は出来なくても、心遣いができる者はサービス業であるホテルマンで重宝されていた。
人事課はコネで入社する部門。
勘違いをする輩が後をたたない部門だった。
女王蜂は働き蜂を守ったのだ。
例えコネで入っても、使えないものは切り捨てる。
それはつくしの為でもあり、息子の為でもあった。
かつて痛めつけた一人の少女。
立ち向かう姿勢に怯んだ自分が懐かしい。
排除し続けた少女は今の道明寺にはなくてはならない存在であった。
陰で守られながら秘書牧野つくしは今日も奮闘する。
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