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追憶

司の両親のお話
追憶





寝室の扉がゆっくりと開いた

私を気遣い静かに入る妻


微かに驚いた顔を見せた

鉄火面と呼ばれる妻


何十年と連れ添った私が微かに気づく変化


「起きていらしたのですか?」

「まあね。」

「明日、シンガポール行きですよ。」

妻はベッドを横切りクローゼットから私と妻が明日着るスーツを出し、鏡の前にかける。

「しばらく別居だね。」


「....何を今さら。」

呆れた声の妻

ドレッサーに座り、髪乾かすようだ

日中の妻はスーツをきっちりと着こなし、上品にまとめられた髪

他を寄せ付けない空気を纏い、矢面に立ち私を支えてくれる



目の前の妻はナイトガウン姿に髪を下ろした無防備

素っぴんの妻が年齢より若く見えるのは、あまり知られていない


妻をじっと見つめると鏡の妻と視線がぶつかる


ドライヤーを止めると不機嫌な声


「何ですか?」


「綺麗だと思って」



「……眼科医手配しますか?」

「これでも視力は良いよ。老眼はあるけど。」

歳には敵わない


呆れたようにため息をつく

「…寝ますよ。」

立ち上がり、ベッドに向かう妻

いつからだったろうか。
別々のベッドに寝るようになったのは。

「隣行って良いかな?」

妻の機嫌を気にしつつ聞くようになったのは。


「…勝手にして下さい。」

疲れてます。の返事から、勝手にして下さい。と言われるようになったのは。

広い寝室で、ダブルベッドが2つ並び妻も私も寝るだけの部屋になったのは、いつからだっただろうか。

同じベッドに寝て抱き合うわけでもなく、妻と私の肩間の微かな隙間

妻は、もう瞼を閉じていた





 「今どきのヘリは機内が静かで驚いたよ。隣の秘書と会話がちゃんと出来た。」


起きているだろう妻に話しかけた

「いつと比べてるんですか。」

「三十年前の今日かな。」

「…」

答えを知っている妻にあえて答える

「君にプロポーズした日と比べてさ。」

夜景を見て、財閥が所有する建物を指を差しながら声を張り上げた

綺麗な夜景の前に本来の目的を忘れ、緊張し自慢話のように所有している建物の話ばかりだった日

「司のロマンチストは、あなた譲りですね。」


「親父もそうだったから、血筋だろう。」

「恐ろしい血筋ですこと。」

笑いを含む声に、私も笑う

「ふふっ。思い描いたプロポーズではなかったけどね。」

機内は騒音が酷く、まともに会話出来るような状況ではなかった。

緊張で声を張りあげて話していた私は 肝心な時に声が掠れた


懸命に聞き取ろうとする妻の手をとり、手のひらに1文字ずつ書いた

M
a
r
r
y

m
e



政略的お見合い結婚で、結婚する事は決まっていたが、自分で伝えたかった言葉。

妻は、頷くのではなく

私の手を握ると汗ばんだ私の手のひらに ゆっくりと

Y
E
S


と書いた


予定していた時間の大半を自慢話に使い、機長の「着陸態勢に入ります」

の声が、現実に引き戻す


キスをするとこも抱き合う事もなく、その後は無言で手を繋いでいた

私達の思い出の一つだ






「楓」

妻の名を呼ぶ

楓の花言葉は大切な思い出


体を妻に向け寝返りをうつ

「なんですか。」

妻はゆっくりと、首だけ私に向ける

「手握っていい?」

「…勝手にしてください。」

妻の手をゆっくりと握る

冷たい左手を両手で包んだ

妻は仰向けのままで、瞼を閉じている




「抱きしめてもいい?」

「もう勝手になさって」


そう言って妻は私とは反対に寝返りをうった

左手は繋がれたまま。

妻を腕枕するようにして抱き寄せ、冷えている右手と左手を左手で優しく包んだ


抱き寄せた妻の背中から伝わる鼓動

自分と同じ鼓動に頬が緩む


妻の感情が表に出なくなったて長い時間が経つ


背負わせてすまない

解放してあげようと何度も思った
考えても決められず長い月日が経過した

連れ添ってくれてありがとう
戦ってくれてありがとう

単純な言葉では表せない思いに、腕に力が入る

妻だけは失いたくない

若い2人よりも私の感情の方が激しい

会社を失わない為にと建前を並べ、本当は妻を失わない為に子供達が犠牲になったようなものだ


「莫迦ですね」

呆れたような、優しさが含まれたような妻の囁やきに温かい気持ちになる

妻の左手が握っていた私の手を握り軽く叩く

重なる手

「君の前ではずっと莫迦さ。」


「仕方のない人ですこと。」


妻の手が温度を取り戻し、絡めた足先も先程より温度を取り戻していた。


妻の髪に触れ、ゆっくりと髪を耳にかけた


大事な人を腕に閉じ込め、失わないように そばを離れる日々



富や名声より、君が大事だと言ったら君はまた莫迦ですねと言うだろう

莫迦なんだよ

何も持たない私には、君はついて来ないだろう

君を繋ぎ止める為に、君の側を離れて富や名声を守るんだから



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  • 2024-03-08 20:26
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