ぺちっ
ぺちっ
生温かい何かが頬を叩き、重い瞼をあげる
目の前にむっちりした、肌色の塊
息子の太ももだ
湿った手が再び頬を叩く
今日もよだれ全開
起き上がり、周りを見れば隣に寝ていたはずの上の息子はつくしの左にぴったりと
引っ付き寝ていた。
つくしも哺乳瓶を片手に持ち力尽きたように寝ている
よだれを垂らして俺の手をなめる息子を抱き、つくしから哺乳瓶を離す
時計を確認すると朝の6時だった
「 あう ぶぶぅ」
よだれのついた手で俺の頬に指を突き刺す息子
愛されることに何の疑いもなくまっすぐ見つめる瞳
「 あー わぁ 」
あっちに行けと訴えている息子
「しゃーねぇな。」
寝ている二人を起こさないように隣の子供部屋に行く
俺にしがみつく小さな手が愛おしかった
志優(しゆう)と書かれたおもちゃ箱から、くまのぬいぐるみと音の鳴る絵本を選ぶ
数年前 志導(しどう)が産まれてから土足厳禁となった部屋がいくつもあり、子供部屋はもちろん土足厳禁となった
カーペットの上にふかふかのラグ
膝の上に志優を乗せ、絵本を開いた
音楽の流れる本は一番のお気に入りらしく、よだれを垂らしながら付属の太鼓を叩く
奇声に似た笑い声 笑う志優に自然と頬が緩む
俺の幼少期の記憶にない歌が絵本から流れる
つくしが起きていれば一緒に歌うだろう童謡
志優は何度も同じ歌を押す
幸せなら手をたたこう ♪
小さな手で、バンバンと絵本を叩く
「おいっ 名前に優しいってはいってんだから、優しくしろ」
なんて、暴力的だった俺が言っていておかしくなる
俺の手を引っ張って俺に叩けと訴える
付属の太鼓をリズムに合わせて叩いた
満足そうに見上げるまっすぐな瞳
つくしと出会わなければ耳にすら入らなかった歌
俺の幸せはこいつらそのものなんだと実感する
しばらくすると飽きたのか、くまのぬいぐるみの耳をしゃぶり抱っことねだる
眠いのか、顔をぴったりと俺の胸に押し付ける
トントンと叩くと瞼がゆっくりと閉じられる
寝息が聞こえ、ベビーベッドに置こうとすると ぱっちりと瞼が開き、顔をゆがませる
泣く前に再び、抱きよせた
何度か繰り返すうちに、面倒になって一緒に床で瞼を閉じた
赤ん坊特有の匂いが鼻をかすめる
つくしが言う幸せの匂い
心地よい重みと温かさに眠りに落ちた
「ママ おきて ママ」
子供の声に重い瞼を開ける
「ん おはよ」
「おはよ」
ハッと目が覚め、腕に抱いていた志優が居ないことに気づく。
肩を優しく叩き、「ママ、志優とパパいないよ。」教えてくれる志導
「ん~ もう起きて 遊んでいるかな?」
「じゃあ、ぼくをだっこしてくれる?」
「もちろん」
志導をギュっと抱きしめた。
腕の中で、「苦しいよ」という、志導
もうすぐ5歳の志導
道明寺 志導
「名前に 道 2つもあったら、自分の行きたい道に進めんだろ?」
漢字辞典と無縁の司が、何時間もページをめくり考えた名前
「同族経営も世襲制も 俺で終わったって、道明寺は傾かねぇよ」
司の思いに、胸が熱くなった
司と瓜二つの顔
志導はのびのびと成長している。
お勉強が好きで好奇心や探求心に親もびっくりするような質問をする。
大人に囲まれて育ったからか、大人に強いあこがれを持っている
最近は司と張り合う姿が微笑ましい
志優が産まれて行動はお兄ちゃんになったけど、まだまだ甘えん坊。
志優に手のかかる時期
我慢させている部分もあるのだろう。
甘えてきたらとことん甘やかそう。
最近は朝起きると、いつも私に引っ付いて寝ている 赤ちゃん返りかな
抱きしめながら状況を考える
今朝は、志優の泣き声で目が覚め、ミルクをあげたまま寝てしまった。
哺乳瓶を持ったままの記憶
司が哺乳瓶をテーブルに置いてくれたのだろう。
起きた、志優と遊んでくれているのかな?
「おなか すいたね。 朝ごはんにしよ?」
「うん」
「パパたち呼びに行こう。」
志導を抱っこしながら、子供部屋に続く扉を開ける
子供部屋には、司の腕に抱かれて寝ている志優
司もそのまま寝ていた。
人差し指を立て、口元に寄せる
「パパたち寝ているから、静かにね。」
頷く志導を一旦下ろし、ソファにあるブランケットを二人にかけた。
すやすやと眠る志優と志優をしっかりと抱え寝ている司の姿に頬が緩む
10年前は想像も出来なかった光景
たくさんの人に支えられ、今の私たちがいる
この世の全てを憎み、生気を失った瞳だった司が別人だと思うほど、子煩悩パパになった
「親からの愛を知り、愛を与え、愛を乞う。
ずっと昔から人間が繋いできた命のリレー。
ぼくは愛することを妻と出会って知ったよ。
ぼくには子供がいないから君たちは子供みたいなもんだよ。
だからみんな幸せになってほしい。
妻もそう思ってつくしちゃんにこの絵を渡したんだろうね。 会いたいね、妻に。」
久美子さんから私が頂いた絵を見て福士先生が言った思い
志導が産まれ子供部屋に飾った 久美子さんが書いた土星の対の絵
久美子さんが子供たちを見守っていてくれる気がした
扉のそばで待つ 志導を抱き上げ静かに扉を閉めた
「ママ 朝ごはんは ねばねば納豆がいいな。」
「いいね。」
司そっくりな顔の志導が 司が食べない納豆をよく食べる
似て非なる
「パパ 納豆食べれないの?ぼくより子供だね。」
ムキになって納豆を食べる司を見るまであと少し。
「貧乏食 食うなら、お前の弁当がいい」
庭先でピクニックとなった休日
虫嫌いな司の頭にバッタが止まる昼下がり
怯えて、振り払い暴れる司
志導に捕まえてもらったバッタ
「パパ 体大きいのに こんな小さい虫 怖いんだね。」
つくしはゲラゲラと笑い、それにつられて志優が笑う
司が虫を克服できるのは数年後
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