「 もう一度 俺達で着させてあげようよ
姉ちゃんの来年の卒業式に 」
「―――来年って進 」
「俺もう高校にあがるし バイトもできるよ
さっきみんなで軽トラ動かしたときに思ったんだよ
家族全員で頑張ればなんだってできると俺は思う
頑張って姉ちゃんをもう1年行かせようよ 」
「ママ 親がこんなでも子供ってのはちゃんと育つもんだね」
「そうね」
ピンポーン
「誰かしら?パパ見てきて。新聞は要らないわよ。」
「よし、パパは頑張って断るぞっ」
晴男が立ち上がり、玄関へと向かう
「新聞は結構です。お帰り下さい。」
ドアをあけもせず、晴男は言った
「あの、道明寺です。」
「えっ」
晴男は振り向き千恵子をみた
「ママッ 道明寺さんが来たっ」
「えっなんでまた?」
晴男は恐る恐る施錠を外しドアを開けた
「こんばんは。お忙しいところお邪魔して申しあけありません。」
司が、深々と頭を下げた
「えっどどど道明寺さんっプラムは?」
晴男が聞く
「プラム?」
「お踊る奴ですよ。」
千恵子が言った。
「プロムですか?これから行きます。その前にどうしてもご挨拶をしておきたくて。」
「そんなわざわざ、狭い家ですがどうぞお上がりください。」
千恵子が司を中に入れた
「お邪魔します。」
「進、座布団とちゃぶ台出してー」
「はいよー。」
進が座布団をちゃぶ台を出す。
「あの、道明寺さんプロムの時間過ぎてませんか?」
「あぁ、この後行く。その前にちょっとな。」
千恵子がお茶を差出し座る。
司が深呼吸をして話しはじめた
「先日は電波を使って公言してしまい、ご迷惑をお掛けしました。」
「「いえいえ。」」
「あの言葉にウソはありません。4年後つくしさんの元に戻ってきたら、これに記入していただけませんか?」
司は、1通の封筒を渡した。
晴男が封筒を開けて中を確認した
「これって・・・・」
「つくしさんを幸せに出来るように強くなって帰って来ます。
あの時のような思いはもうしたくありませんし、させたくもありません。
今の俺はまだつくしさんを幸せにすることは出来ません。
4年後、つくしさんを迎えに来た時に、お父さんの判断で構いません。
認めてくださるなら、その時この紙にサインをしてください。」
司は深々と頭を下げた。
司の真剣な顔に晴男は背筋を伸ばし答えた。
「わかりました。これは預かっておきます。」
「宜しくお願いします。それとつくしさんですが英徳をやめませんよね?」
「ちゃんと通いますよ。」
「そうですか、ではこれを彼女の為に使ってください。」
分厚い封筒を差し出す司
晴男がそれを司に返す
「正直喉から手がです程欲しいですが、さっき家族みんなで頑張るって言ったばかりです。
これ以上道明寺さんに甘えるわけにはいきません。
漁村での出来事は感謝していますから。」
「・・・そうですか。」
「はい。お金でつくしは売りませんよ。」
にっこりと笑った
「はい。買うつもりはありません。」
「じゃあ、良かった。つくしが待ってると思うんで道明寺さんつくしの元に行ってあげてください。」
「はい。お忙しい中お邪魔してすみませんでした。」
司は封筒をしまう。
司を見送る三人
「道明寺さん、NYで頑張ってください。」
「おう、弟またな。」
「「お体に気をつけて。」」
「ありがとうございます。」
三人は車が見えなくなるまで司を見送った
「そう言えば言うの忘れたね、姉ちゃんのドレス破れたって。」
「そうだね。」
「大丈夫よ。道明寺さんはつくしが何着ててもつくしが良いようだし。
むしろ、なにも着てない方が喜びそうだし。」
「ママ、それは破廉恥だよ。」
口に手をあてる晴男
「・・・」
言葉を失う進
部屋に入り、司が置いていった紙を晴男は書類が収められている引き出しに入れた。
「よーし がんばろう」
「ひとり ノルマ 月15万!!」
「「「うおーっ」」」
***
バンッ
「おめーら 起きろっ。早く帰れっ」 司の声が響き渡る部屋
昨日、司の帰国と類の誕生日のお祝いが行われたつくしのマンション
至る所で、みんなが寝ていた
朝日が昇る頃まで、行われた宴会
現在14時
司はやるべきことがあるので皆を起こし、帰るように言った
さすがに飲み過ぎたため、皆が頭を押さえていた
早々に酔いが回った部屋の主であるつくしは寝室でまだ寝ていた
「おいっ牧野起きろっ」
揺すっても起きない
「牧野っ」
布団を剥いでも起きない
「起きないとキスすんぞ?」
「んっ」
寝ぼけながら瞼をあける
「てめぇ今の言葉で起きるんじゃねぇ」
「ん?あっ・・・おはよ。今何時?」
「もう二時だ。起きろっ」
「もうそんな時間?ってか、まだ寝たい・・・・」
布団をかぶろうとする
「なってめぇグダグダしてんじゃねぇ。早く起きろっ」
唸りながらつくしが起きてみんなの居るリビングに向かう
リビングではグダグダしながら座るみんなに、桜子がコーヒーを入れていた
滋は全く起きない
「俺は今日中にやらなきゃいけないことがあるからお前らは帰れ。」
「久々に会った仲間に起きて早々それかよ。」
「うるせぇ。俺は明日から仕事で今日しかねぇんだ。コーヒー飲んだら帰れ。」
欠伸をしながら各々が手をあげる
「牧野、牧野んちに行くって連絡しろっ」
「えっなんでうち?」
「いいから、いる時間わかったらその時間に行くから。」
「何しに?」
「なんでもいいんだよ。とにかく連絡しろっ。」
「?わかった。」
つくしは充電していた携帯を持ち、電話をかける。
「あっもしもしママ?」
「うん。元気------」
つくしがキッチンに行って電話をかけてる
司もまた携帯を持って別な部屋に向かった
桜子がある疑問を聞いた
「先輩って大人になってもママって呼ぶって不思議ですよね?あんなに頭が良いのに。」
「私はつくしと小学校4年生から一緒だったけど、ずっとママだったよ。」
優紀が桜子に言った。
「俺等みたいに厳しい家でもねぇだろ?」
総二郎が言う。
「その理由僕知ってるよ。」
和也がコーヒーをフーフーしながら言った
皆が和也を見る
「僕はつくしちゃんが引っ越す前幼稚園から小学三年生まで一緒だったけど、つくしちゃんは三年生の春まではお父さんお母さんって普通に呼んでたよ。
だけど国語の時間に家族の作文を書く授業でクラスの女の子が、パパ、ママって呼んで作文を披露したんだ。
そしたらクラスの男子がからかっちゃって、その女の子は泣いちゃったんだ。
正義感が強いつくしちゃんは、自分が作文を読むときにわざわざお父さんとお母さんのところをママパパって呼んだんだ。
当然、からかう男子だったけど、あのつくしちゃんだからさ。みんな呼び名はなんでもいいよねってことになった訳。
それから、つくしちゃんはずっとパパママって呼んでいると思うよ。」
なるほどねぇ。と納得する一同
さすがお人好しと笑う
司は部屋に戻り、ソファーに座る
そこにつくしが帰って来た
「夕方なら帰っているみたい。」
「わかった。おめぇら、帰れっ」
「「はいはい。じゃーな」」
あきらと総二郎が寝ている滋を抱えて部屋を出る。
「牧野またね。」
類が微笑み手を振れば、つくしも微笑み手を振る。
「類っ牧野に微笑むなっ」
「先輩お邪魔しました。」
「つくしちゃんまたね。」
「つくし、またね。道明寺さんお邪魔しました。」
優紀だけが司に挨拶をした。
「もう来るなっ」
バンッ
勢いよく玄関の扉を閉めた司だった。
***
牧野と二人で牧野の家に来た
あの日来た場所とは違う場所。
狭い住宅街ではリムジンも入れねぇ
牧野は目立つから、少し歩くと言う。
牧野の家族が住む家はすげぇ狭いのに、牧野んちの親は笑っていた
きっと俺には知らない幸せがまだたくさん牧野の家にはあるんだともう
牧野の隣で座っていると、牧野の母親が牧野を呼ぶ
牧野の弟はまだバイトから帰って来て無いようだ。
狭い部屋、牧野の親父と二人だけ
胡座から正座に座り直し、牧野の親父をみる
「パパ緊張しちゃう。ちょっとトイレっ」
まるでピューっと言う効果音が出るような速さで居なくなった。
牧野が俺にお茶をだし、もう一度母親のところに行った。
帰って来た牧野の親父は手に封筒を持っていた。
「ねぇ、道明寺?今日カレーらしいんだけど食べる?
あんたにはお口に合わないかもしれないんだけどさ。」
キッチンから聞こえる牧野の声
「あぁ。食べる。」
「ホント?やったー。ママ作ろうっ」
すげぇ嬉しそうな声が聞えた。
インドから取り寄せた香辛料を調合してシェフがつくるカレーしか食べたことのない俺はきっと未知の味のカレーをこれから口にするのだろう。
いや、牧野の事だからインド料理の店でバイトとかしてたのか?
そんなことを考えていたら、牧野の親父が俺の前に正座で座った。
「これを道明寺さんにお返しします。サインはまだしてません。
結婚はみんなに祝福されてするものですから、道明寺さんのお父様お母様につくしが認められたとき、私にもサインをさせてください。」
そう言って牧野の親父は俺に封筒をよこし深々と頭を下げた。
「・・・・わかりました。」
ふーっとため息を吐く牧野の親父
「パパ緊張しちゃった」
と言って足を崩す。
「道明寺さんも足を崩してください。ところで道明寺さんはババ抜き得意ですか?
パパはね、あの類君に負けたことがないんだよ。類君がジョーカー持ったらひかないからねっ」
にっこり笑う牧野の親父
だが、俺は類がここにいつも来ていたことにイラ立つ
「得意かどうかはわかりませんが牧野には負けたことがないです。」
「そうかい?じゃあ、カレーできるまで勝負しよう。」
そう言って、隣りの部屋からトランプを持ってきた牧野の親父はトランプを配り始めた
互いにトランプをひきはじめる
牧野は母親と楽しそうに会話をしていた。
材料が足らないので二人で買い物に行くと言う。
俺を置いてくのかよっ。
そう思っていたら、出ていくのを確認した牧野の親父がトランプを置き正座した
「つくしのところに帰ってきてくれてありがとうございます。道明寺さん。」
牧野の親父が俺に頭をさげた。
「いえ、約束であり目標でしたから。」
「そう言ってもらえて嬉しいです。行ったばっかりの頃かな?
つくしが学校帰りに週刊誌をいつもママに持って帰ってきてね。
タダでもらったって言ってて、ママも喜んでいたら中に道明寺さんのことが書かれた記事があってびっくりしたことが何度もあったんですよ。」
「・・・・すみません。全部ガセネタですから。」
「もちろん、目が違うと思ってみてました。だけどうちはこんな家でしょ?
つくしで本当にいいのかと何度も思いました。」
「つくしさんだからいいんです。」
「ありがとうございます。つくしが苦労するのは私が悪いんですがね、つくしは親に似てなくてよかったと思うばかりですよ。
つくしが頭いいのが不思議に思ったことはありませんか?」
「・・・・多少は。」
「でしょう。つくしはママのお父さん、つくしのおじいちゃんによく似てるんです。もう亡くなりましたが・・・。」
「牧野のお爺さん?」
「はい。頭が良く、町医者をしてました。町の人に好かれる性格。困った人をほっとけない性格。
ママはお金持ちだったんですよ、小学校までは。ママが小学校の時にママの家のすぐそばに大きな大学病院が出来たんですよ。
患者さんはみんな大きな大学病院に持ってかれたそうです。
そして残ったのは裕福ではない人ばかり。
ママのお父さんは、困った人に治療費以上の治療をしてあげる人でね。気づけば経営難。
それと同時にママのお母さんは病気で寝た切り、ママが高校生の時に死んでしまったんだよ。」
「・・・・そうなんですか。」
「密葬だったんだけどね、町の人は誰も来なかったらしい。
ママが泣きながらママのお父さんに言ったらしいんだ。
「皆にばっかり良い顔して、いいお医者さんって言われてもお母さんが死んだら誰も線香1本もあげに来ないじゃない。
医者のくせにお母さんも救えないお父さんは医者でもなんでもない」ってね。」
「・・・・」
その言葉になんていっていいかわからない俺。
「高校卒業と同時にママは家を出てお父さんとは音信不通。お父さんはそれから医者をやめたらしいんだ。
何年も会ってなかったママがお父さんを訪ねたのはパパと結婚するとき。
その時お父さんは余命2か月でね、ママは泣いていたよ。
ママのお父さんはお母さんの遺骨をお墓に入れないで持っていたんだ。
それを一旦お寺に預け、ママはお父さんの最後を看取った。
お父さんの遺骨もお寺に預けてね。お墓はお金がかかるから。
丁度ママのお腹につくしが宿りどうしても大金を払うことは出来なかったんだ。
それからも私がこんなんだからママは苦労して工夫してつくしと進を育ててくれた。
ママがね、玉の輿って言うようになったのは、つくしが中学二年生の時かな?
同窓会の案内が来て、行かないって言ったママにパパは行ってきなさいと言ったんだ。
それがまずかったのかな?
ママの名前は千恵子って名前なんだけどね、ママは昔お金持ちだったから高い服はたくさん持っていてそれを着て生活してたら、貧乏なのに見栄ばっかりはって、千恵子じゃなくて見栄子じゃないっって苛められてたらしい。
着ていた服は盗んだりしたものじゃないのにね。
そんな同級生も参加した同窓会でなんかあったんだろうね。
つくしを英徳に入れるって言いだしたのはその頃から。
見事合格したつくしは凄いと思うけどね。
さっき、お墓を作っていないっていったでしょ?」
「あっはい。」
「お墓去年作ったんだよ。つくしのお蔭でね。」
「牧野の?」
「長年遺骨を預けていたお寺から遺骨を引き取ってくださいって連絡がうちに来た時、つくしが偶々ここに帰って来た時でね。
お墓たてますからって返事をしたらしいんだ。そんな大金うちにはないよっていってたら、次世代の後継者のコンテストで優勝したお金、実は5万じゃなくて500万円なのよっ。ってね。
そのお金でお墓を建てたんだ。不甲斐ない親でしょ?」
「・・・。」
「つくしばっかりに頼って情けないんだけどね。お墓が出来て初めてのお盆に墓参りに行ったらね、お墓にたくさんのお花があったんだよ。
お寺の住職に事情を聞いたら、町の人がお墓を建てたことを聞いて花をお供えしてくれたらしいんだ。」
「・・・街の人は世話になったこと覚えていたんですね。」
「そうだね。ママのお母さんが亡くなった時も本当は来たかったらしいんだがね、大学病院からママのお父さんの病院の場所を地上げ屋が買い取る話が出てて、ずっとママのお父さんは断り続けてたんだ。
近所の人は次々近くのベッドタウンに引っ越ししてて。ママの家と関わったら嫌がらせをするって言われてたそうだよ。
何十年もたって聞かされた話。
3月はお彼岸って言うのがあってね、先日もお墓参りに行ったらたくさんのお花と線香があってママはお墓の前で泣いたんだよ。
ごめんなさいって。ママにもママの事情があって玉の輿って言ったけど、道明寺さんがお金持ちだからつくしを任せるのではなく、道明寺さんだからつくしをお願いできます。
漁村で道明寺さんのつくしに対する思いは知ってましたから。
お金目当てで親が望んでるって思われたらつくしが可愛そうでこんな話を長々としてしまいました。
つまらない話ですみません。」
「いえ、牧野のお人好しとか頭が良い理由がわかってよかったです。今度俺も墓参りに行かせてください。」
「そう言っていただけてありがとうございます。」
深々と頭を下げる牧野の親父が、微かに震えてて何にも考えていない親父だと思っていたけどそうでなかったことがわかった。
それと同時に牧野がどんなに家族を大切にしているかってことも。
牧野の家にあった家族写真
皆がすげぇ眩しい笑顔で笑っていた。
壁には節約の文字
決して今現在でも裕福ではない牧野の家だけど、いくら資産があるのかさえ分からない俺の家よりもはるかに幸せそうに見えた。
玄関先から聞こえてる牧野と牧野の母親の声
返された封筒を胸ポケットに入れた。
何だか知らねぇが歌を唄っていた。
俺の知らない歌で俺の知らない振付
一度聞いたら忘れない歌だ。
「道明寺、カレー作るの見る?」
「おう。」
立ち上がって牧野の立つキッチンに向かった
牧野より小さい牧野の母親
この母親が牧野を産んで育ててくれたこと、どんな理由でも英徳に牧野を入れてくれたことに感謝したかった。
牧野に言われ、ニンジンの皮をむいてみた。
「上手っ」
「だろ?天才だからなっ」
「クスッ今度二人でカレー作ろう」
微笑む牧野の顔があった
「あぁ」
「パパビール飲もうっ」
牧野の親父が冷蔵庫に手をかけた瞬間、牧野の母親がその手を避ける
「駄目よっパパっ。いただきますまでお預け」
怒られて本気でしょげる牧野の父親に笑いそうになる。
今度ビールでもたくさん送ろう
そう思っていると再びあの歌
「なんで歌って作るんだ?」
「カレーはこの歌を歌わないと美味しく作れないのよ。」
聞こえる楽しそうな声
牧野の両親も歌っていた
俺にはこんな風に家族会話したり歌を唄ったり、料理をしたこともなかった。
牧野の家族は金より価値のあるモノをたくさん持っていた。
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