模範のような代表の挨拶から始まり、類は何の感情も表さず言葉を述べた。
そして一呼吸して、英語のスピーチに切り替えた
『3歳から今日まで19年間この英徳に通い、楽しかったのはたった四年数か月です。
特に印象に残っていることは、現実の世界で「王様の耳はロバの耳」と叫んでいる人がいたことでした。』
類とつくししか知らない話。
内容を理解した会場内は少しざわつき、つくしは真っ赤になり、誰だかなんとなくわかったあきら、総二郎は笑った。
そしてつくしの周りにいる三人の母親も。
『俺は幼稚舎で出逢った司、あきら総二郎と、互いの境遇を感じいつしか4人だけで過ごしてきました。
楽しいことは何もなく、ただ通うだけ。次第に授業も受けなくなり、非常階段や中庭、廊下で戯れる日々。
誰一人入り込むことも許さず、狭い世界の中で過ごす日々は俺たちを退屈させ、いつしか残忍な赤札と言う遊びを始めました。
世間では俺たちをF4と呼びます。
Flower4 (花の4人組)や Fascinate4 (魅惑する,悩殺する4人組)
だが、赤札をはられた人は、僕たちを心の中でFiend4 (悪魔,悪鬼,鬼の4人組)と思っていたでしょう。
学園に通う生徒の大半は将来が約束された環境、大手企業、中小企業の後継者として生まれた宿命の中、期待に応えなきゃいけないプレッシャーは誰しも感じていたと思います。
俺たちも家柄に媚びる周囲の目で見られることを不快に感じていました。
誰も寄せ付けず、俺たちの満たされない心はいつしか赤札と言う遊びに変わり、学園の皆がストレスのはけ口として加担しました。
5年前英徳にジャンヌダルクが現れ今では平和な学園ですが、当時は無法地帯でした。
学園中を敵に回したジャンヌダルクはたった一人で赤札を貼った俺達に言いました
「あんた達の性根 あたしがたたき直してあげる 宣戦布告よッ」と。』
類は、当時を思い出してクスッと笑った。
その顔にざわつく会場。
つくしに至っては穴があったら入りたいと思う心情だった。
『俺達はいじめに加担せず、興味本位で見ていました。
いつものように、ちょっと嫌がらせをすればすぐ退学するだろうと思っていました。
これまで多くの生徒が1日も持つことなくやめてきたのだから。
だが、ジャンヌダルクは違いました。
踏まれても蹴られても春には芽を出す雑草のつくしのようにパワーあふれる正義感で、俺達の背後にある家柄や権力、財力には目もくれず、正々堂々と間違ったことは間違ってると言い、俺たちの前に立ちはだかりました。
そして俺たちはいつしかジャンヌダルクに本当に性根を叩き直されてました。
それからの学園生活はあっという間で、いつの間にか今日の卒業を迎えました。
今は平和な学園ですが、いつかまたこの学園に俺たちみたいな奴らが現れるかもしれません。
俺たちが学園を牛耳っていたように、先生も黙認する無法地帯にならないように、未来ある生徒を守るために幼稚舎から大学部までの生徒が心の拠り所になる場所この学園に一つの場所を設けたいと思います。
生徒が家柄や権力、寄付金に関わらず、平等で居られる場所です。
つくし教室と名付け、外部の心理カウンセラー、教育者がいる教室を建設します。
それをここには居ない道明寺司を含めた、美作あきら、西門総二郎、俺の4人でこの学園に寄付したいと思います。
それが俺たちがしてきた赤札に対する謝罪だと思っています。どうしてもこの場で発表したくてこのような挨拶になりました。失礼をお許しください。以上で代表の挨拶とさせていただきます。』
類は深々と頭を下げた。
普段公の場で話すことのない類のスピーチ。
英語で話したため、会場の中の何人の人が正しく理解したのか定かではないが、会場内は拍手に包まれた。
類に頷くあきらと総二郎。
つくしは複雑な心境だった。
いままで赤札の話題には触れることがなかった。
彼らが、いつしか罪の意識を感じ、このようなことを考えていたとは思いもしなかった。
式が終わると、つくしは三人の母親に挨拶をして、会場の外に出た。
火照った頬が春風で冷め始めた
ゆっくりと歩き出し、高等部の非常階段に向かった
先日来た時はペンキ塗り縦の看板があったが、今日は外されていた
1階からのぼり、2階の踊場へ向かう
4年の年月で少し伸びた周りの木々
ここに通った毎日が鮮明に蘇った
大っ嫌いだった学園
早く卒業したいと思ってただ目立たず、地味に過ごした日々
ここでストレス発散した日々
F4と接点を持ってしまった日
苛められた日
宣戦布告した日
類に助けられた日
類を思って泣いた日
道明寺を思って泣いた日
いろんなことがあった
ここは自分のオアシスだった
「牧野っ」
その声で、下を見ると類がいた
「類っ」
「そこで待ってて。」
「うん。」
類がゆっくりと階段をのぼった
「ここにいると思ったんだ。」
「無意識に足がこっちを向いちゃって。」
「今日で俺はここ最後かな?」
「最後でしょ?」
「牧野が来てほしいって言うならこれからも来るよ。」
類はつくしを見つめた
「わたしもここは今日で卒業しようと思ってきた。」
「うん、それがいい。」
類が微笑んだ。
春のそよ風が二人を包み込む
沈黙でも流れる空気が心地よい
「つくし教室は、非常階段の延長線?」
つくしがスピーチの話題に触れた
「うん。」
「そっか、嬉しいな。スピーチ内容は半分私に対する嫌がらせかと思ったけど。」
「ん~、ちゃんと公にしておいた方がいいと思ってさ。ごめんね。」
「いいよ。赤札って言葉がなくなればいいと思ってるから。」
「なくならせるよ。自分たちで作ったものは自分たちで破壊しないと。」
「そうだね・・・・。」
「ねぇ、ここで叫ぶって気持ち良かった?」
「ん?あぁ、もうね最高だったよ。
家ではママの期待ばっかりで、学園では自慢と嫌味と苛めで居場所なんてなくてこことバイト先が唯一の居場所だったから。
バイト先で叫ぶわけにもいかないしね。」
「俺も叫んでみようかなぁ。」
「えっ類が?」
「うん。」
「・・・・なんて叫ぶの?」
「ん~牧野好きだって。」
その言葉にじーっと類を見るつくし
「卒業式の日までからかうの?」
「クスッばれちゃった?」
「私で遊ばないでって言ってるでしょ?」
「それが俺の楽しみだからね。」
「もうっ類のおもちゃじゃないんだからねっ」
「はいはい、じゃあね、」
類は大きく息を吸った。
「司のバーカ
早く帰って来ーい
牧野が泣きそうだぞー」類はつくしの気持ちを代弁した
「・・・類。」
「俺も司にバカって言ったからすっきりした。」
微笑む類につくしも笑った。
「ちゃんと帰国の連絡くるよ。」
ポンポン
つくしの頭を触った。
「うん。」
類の気持ちにつくしは眼元が揺れ動いたのがわかった。
類とは別な方向を向いてそっとハンカチを出して眼元を拭く。
類の前でも泣かないって決めたから。
それはつくしの意地でもあった。
もし泣くなら、道明寺の前だけ。
LOVE TSUKOSHIの文字を見た時、つくしが決めたこと。
一度司の腕の中で泣いた日があった。
とめどなく流れる涙。
目が腫れて不細工だって笑われた日。
類の想いを知ってしまったから、つくしは類の前ではないてダメだと思った。
それはつくしが類に出来る友達としての思いやり。
卑怯な人にはなりたくなかった。
それでも支えてくれる類につくしは感謝の気持ちでいっぱいだった。
つくしはハンカチをしまうとつくしは鞄から一枚の封筒を取り出した。
「これ、類に。
ずっと渡そうと思って渡せてなかったから。」
「ん?なに?」
類は封筒を受け取った。
「開けてみて」
「わかった。」
ゆっくりと封筒を開くと中から出てきたのは、チューリップとカスミソウの押し花したしおりだった。
「これってあの時の?」
「正解。押し花の機械うちにはないからさ、市の図書館にいってやってもらったの。
類が初めて稼いだものだからね類にも持ってて欲しいと思って。
本読むときのしおりにでも使って。」
「わかった。」
「実はね、二輪もらったから
私もしおりにした。」
そう言ってつくしは鞄から手帳を開きしおりをだした。
「この時が人生で一番どん底だったような気がしたから、このしおり見ればどんなことでも頑張れる気がするんだよね。」
つくしはしおりを見つめて言った。
「どん底を知れば後は這い上がるだけだよ。
牧野はもう自分の力で這い上がって来たじゃん。」
「類やみんながいたからだよ。」
「それは牧野の頑張る姿を見てるからね。」
「私頑張ったかな?」
「十分すぎるほどこの4年頑張ったと思うよ。」
「私も頑張ったから・・・・・・・帰って来るよね?」
つくしの声が震えた。
「帰って来なかったら、ぶっ飛ばしにNYに行ったら?」
「クスッ そうする。」
つくしの笑った顔に、類は慈愛に満ちた表情で見つめた。
時計をみるつくし。
「あっもう時間。桜子たちと準備するから、先に行くね?
西門さんや美作さんに遅くならないように言ってね?」
「あー総二郎たち多分、囲まれてるからメールしておくね。」
「あっそっか。うん。宜しく。」
つくしは走って非常階段を後にした。
類はつくしから貰った封筒を胸ポケットに入れた。
ゆっくりと瞼を閉じる
『王様の耳はロバの耳~』
懐かしい声が春風によって聞こえた気がした
瞼をあけ、ゆっくりといつもの場所に座った。
いつもつくしが座る場所にそっと手を触れた
「ありがとう」
本人には言わないが、類は自分こそ感謝の気持ちでいっぱいだった。
「今度ここに来るときは、俺の気持ちを整理してから来るから。
いつになるかな?
それまで、壊されないようにこの学園に非常階段の維持費でも寄付しないと。」
ふぅーとため息を吐き、類は立ち上がった。
「クスッ 2輪の花であんなに喜んでもらえるなら、初任給で花束でも買わないとね。」
階段を降りながら携帯と取り出す類
「もしもし、花沢ですが。」
「来週新規で口座開設したいので会社に来てもらえますか?」
「えぇ、俺の他にもあと2名開設予定なんで、同行できる日あったら連絡してください。」
「はい、じゃあ、また。」
「今日は寝れなそうだから、一旦家帰って寝よう。」
非常階段を去る類
まだ、消えぬ恋心を胸に英徳学園から卒業する
『 花沢類
あたしが花沢類を好きだったこと知ってた? 』
『 もちろん 』
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