渡米して10日。
司は会社から、部屋に戻るとサイドテーブルの上の小包を手に取った。
宛先人: 道明寺 司 様
差出人: 三条 桜子
桜子から?なんだ?
桜子は前科があるため司は不審になりながら小包をビリビリと破き中身を確認した。
中には1通の手紙とアルバム、DVDが入っていた。
アルバムを開くと、牧野が写っていた。
生まれたときの写真。
小さな赤ん坊が母親の腕の中で、大切に抱かれそばでは牧野の親父が立っている写真。
弟が生まれた時の写真なのか、牧野が親父の膝の上に座り半ベソになりながら母親に抱かれる弟を見ている写真。
親子で写る七五三の写真。
小学生の牧野。
入学式の看板の前で、小さい体に大きなランドセルを背負って家族で写る写真。
おにぎりを食べ、笑っている写真。ウサギのお面をかぶり浴衣を着ている写真。
遠足の写真であろう、牧野を囲んでみんなが笑っている写真。
中学生の牧野。
髪が伸び、優紀というダチと、女友達であろう4人と笑ってる写真。
遊園地のジェットコースターの前で笑っている写真。
お寺と一緒に写っている写真。
枕を持って笑っている写真。
花束をもって、先生と涙ぐみながら写っている写真。
英徳学園入学式の看板の前で、緊張した顔で写っている牧野。
全部が司の知らない牧野だった。
パージをめくると、<ここからは道明寺さんの知っている先輩です。>と書いてあった。
熱海の旅行の写真。
{牧野と初めてキスをした。}
クラブに入ろうとしている牧野の写真。
「あのやろう。こんなものまで。」
司は怒りながら次のページをめくった。
南国の島での写真。
{この時、牧野は類が好きだった。}
バスケ対決の写真。
{この時、牧野を傷つけるくらいなら、自分が身を引こうと決めた。}
TOJに出場している牧野の写真。
{奇跡の特別賞とったんだっけ。}
カナダでスノーボードを持っている写真。
{あいつあの時死にかけたんだよな。}
デルモと写っている写真。
{あの時本気で牧野が好きだって自覚したんだ。}
カフェテリアで牧野とご飯を食べている写真。
{緊張して飯食ってやがる。}
牧野、滋、桜子そして牧野のダチが写っている写真。
{漁村から帰ってきたときの写真か?}
浴衣を着ている牧野。
{この時、初めて牧野から好きだって言われたんだっけ。}
司は写真を見ながら口角をあげた。
制服を着て、ボールを手にして驚いている写真。
{犬は最悪だったけど、あいつが隣にいれば楽しかった。}
夕日と男女二人のシルエットの写真。
{俺と牧野だな。この時、俺は牧野と決別しようと考えていた。}
非常階段で寝ている牧野の写真。
{ったく、いろんなところで寝てやがる。}
和也、あきら、総二郎と踊る写真。
{プロムの写真かぁ}
類の隣に立つ写真
{涙ぐんでやがる。}
俺に指を差す牧野。
{宣戦布告しているときか。}
俺に抱きかかえられている牧野。
{涙ぐんでいたっけ。空を見ろって言ったときか?}
最後のページにはプロムの後みんなで撮った写真と空の写真があった。
空の写真には付箋で
≪スペル間違っています。正しくは TSUKUSHIです。≫
牧野と同じこと言いやがる。
ふっと笑い、アルバムを閉じて手紙を広げた。
道明寺さんへ
お元気ですか?
慣れない土地で大変だと思います。
少しでも道明寺さんの活力になるように先輩の写真を送ります。
写真は 先輩のご両親、滋さん、青池先輩、優紀さんに協力してもらいました。
複写の写真です。先輩には内緒にしてください。
プロムの写真と空の写真は滋さんの専属カメラマンに撮って頂いた写真です。
プロムはDVDもあります。よかったら見てください。
例え道明寺さんでも、先輩の笑顔を奪うことがあったら絶対に許しません。
先輩を宜しくお願いします。
三条 桜子
「許さないか・・・その前にお前が牧野に酷いことしてんだろーが」
司は携帯をポケットから取り出した。
「よー。あきら、三条にサンキュって伝えてくれ。あと、約束するってな。」
----「司 意味わかんねーよ。」----
「ちゃんと伝えろよ。じゃーな」
----「えっ おい。ってか、DVDみ」----
一方的に電話を切りパソコンを立ち上げDVDをセットした。
DVDに映し出されていたのは、ドレスを持って走ってくる牧野だった。
類に助けられる牧野。
和也たちと踊る牧野。
宣戦布告している牧野。
俺に抱きしめられる牧野。
DVDが途中で途切れ、あきらの顔が映し出された。
「司、NYで頑張れよ。牧野のことは任せろ。たまに遊びに行くからな。」
総二郎
「司、お前NY行く前に童貞卒業していけよ!
まあ牧野の鉄のパンツは思ったより、頑丈に鍵がかかってたわけだけどよ。
お前に次会うまで鍵かかってるように見張っててやるよ。頑張れよ。」
類
「司、早く英語話せるようにしなよ。牧野は意地っ張りだけど、やっぱり淋しがっていると思うから、ちゃんと連絡してあげなよ。」
和也
「つくしちゃん泣かせたら許さないからな。僕のつくしちゃんを・・・ぐず・・」
滋
「司~滋ちゃんだよ。つくしが淋しがらないように、滋ちゃんがいっぱいつくしと遊んであげる。司が嫉妬するくらいにね。へへへ。悔しかったら、時々つくしに会いに帰ってきなよ。」
桜子
「道明寺さん。先輩は鈍感なので変な虫がつかないように見張っておきますね。道明寺さんも変な虫つかないようにしてくださいね。」
一旦映像が途切れ、非常階段にいる牧野が映し出された。
「おーい。牧野。」
「えっ 西門さん、花沢類、美作さん。卒業したのに何でいるの?」
「何って、お前を探しに。司にビデオレター送るから、愛のメッセージでも言え。」
総二郎の声。
「げっ 愛のメッセージって言えるかっ!」
「なんでもいいから言えよ」
あきらの声。
「急に言われても思いつかないよ。」
「牧野。司の名前呼ぶだけでもいいんじゃない?」
類の声。
「なっ///名前なんてもっと言えないよ。」
「つーか、なんでもいいから言え。テープ切れる。」
総二郎の声。
「えっじゃあ、・・・・道明寺あんたも頑張ってね。あたしも頑張るから。体に気を付けて。・・・・こんな感じでいい?」
「ったく、本当に色気がねーやつ。司大好き。とか、愛してる。とか、投げキッスぐらいしろよ。」
総二郎の声。
「でっできるかっ///// エロ門。」
「「あはははは。」」
「牧野らしくていいじゃん。」
画面が暗くなった。
「・・・あいつら」
司は胸が熱くなった。
あいつの顔が見れないことが辛かった。
たった10日。こんなんで4年頑張れるのか?と、自分の心情に苦笑する。
「明日にでもテレビ電話の手配しておくか。」
写真も嬉しいが、やっぱり動く牧野を見たいと思う。
司はパソコンを閉じ、バスルームへと向かった。
アルバムとDVD。
司がNYで過ごす4年の間、デスクの引き出しに大切に保管されていた。
仕事で煮詰まった時、何度もつくしの笑顔に支えられることとなる。
約束の時まで、どんなに離れていても信じている。
開くたびにつくしの声が聞こえる気がした。
「天下の道明寺司に出来ないことなんてないでしょ。」
宣戦布告してきたつくしの写真がそう言っているかのようだった。
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